2012年1月14日土曜日

書評:おれはミサイル

おれはミサイル 著者:秋山 瑞人 (ゼロ年代SF傑作選収録)





ミサイルの気持ちを考えてみましょう、と聞かれて一体どんな答えが思い浮かぶだろうか。
これは戦闘機とミサイルに魂が宿り、意志を持ち、行動する物語である。

短編でありながらも舞台設定はおざなりにされてはいない。直接の言及は無いが、言葉の端々に表れる前世界の名残というか残滓から、この世界の成り立ちや現在の状況を想像することが出来る。
この想像に実にSFらしい楽しみがある。読者はその作品の幅に収まらない、それ以上に広がる世界を想像し得る。

そしてこの世界に生きる戦闘機とミサイルがその死生観を披瀝する。対立する二種類のミサイルの価値観。それを聞き、その生き様を見て、戦闘機は何を思うか。

また白眉な文章も見所の一つ。戦闘機の稼動状況を、仕組みを知らずともイメージしやすい形に喩えて表現し、大空の光景は瑞々しい筆致で眼前に展開される。

氏の作品で表すと、イリヤの空よりも猫の地球儀に近い作風だろう。猫の地球儀での地球儀の役割がグランドクラッターに置き換わっている。
しかし地球儀は憧れの対象であったのに比べ、グランドクラッターは都市伝説のようなものである。
猫の地球儀は浪漫を追い求めてせめぎ合い奔走する活力の漲る作品であるのに比べ、おれはミサイルは文字通り無限に広がる大空が舞台なのに、あてどもなく不毛に彷徨い刹那的で終わりなき終わりがただ見えるのみである。
読了後にはきっとミサイルの刹那的な生き様に感傷を憶え、またそれを見つめる戦闘機の哀愁を感じ取り得るだろう。