2012年11月8日木曜日

或る夜の出来事

布団に寝そべり意識は朦朧。耐え難い眠気に見るともつかぬ虚空を眺めると、聞こえてくるは羽虫の音。


羽虫はジィジィと羽ばたき壁をコツコツ叩きながら天地が引っくり返ったとばかりに天井を転げ回り、おちおち寝てもいられない。いつ力尽き顔の上に墜ちて来るともしれない。 心が落ち着かない。


どうにか平穏無事な睡眠を妨げられぬよう羽虫を捕らえるためにと抗い難い眠気に抗い体を動かそうとするが、まるで杭に打ち付けられたかのように腕が動かない。脚が動かない。首が回らない。


羽虫の軌道は光を残す。コツコツと小気味良いリズムに合わせて跳ねるように踊る半円形。薄い意識はとうにリズムと動きに支配され、それが何かは蚊帳の外。羽虫は果たして蚊だろうか。


あぁこの残光はかつて花火を手に持ち闇に描いた軌道と似ているなぁと思うが止まる、羽虫の音。雲が晴れ渡り青空が見えてくる。青空はいつもの部屋の天井だった。


布団に寝そべり意識は明瞭。そばだてた耳にはもう届かない。羽虫の音は夢幻に消え果てた。或る夜の出来事。

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